2021/12/11
SDGsとフードビジネスについて
はじめに
発足当初からの経緯では投資的な視点からいわゆるESG(Environment)(環境)、(Social)(社会)、(Government)(ガバナンス)や企業のCSR(Corporate Social Responsibility)活動の一環として注目されている。SDGsの各アジェンダはかなりの部分がフードビジネスの分野と重複しているため、その内容に関して少し踏み込んでみたいと思います。
1. SDGs の概要
発足経緯については2015年の「パリ協定」、2016年「国連での採択」が伏線となっている。国連主宰の委任投資原則PRI(Principles for Responsible Investment)の宣言を契機に日本においても年金運用独立法人(GPIF)がPRIに署名したことにより大きな注目を浴びたようである。(その運用投資は1兆ドルと世界最大)その内容については国際社会の共通の社会課題である17の目標と169項目のターゲットから構成され「持続可能な開発目標」が挙げられている。『SDGs』は一過性の『流行言葉』でそのうち廃れてしまうとの見解もあったがその終わらない理由としてPRI/国連環境計画にて提唱された持続可能な成長を実行する世界的な枠組みであるという点と、目標が2030年までの目標である2点がある。投資家の間でも『ESG投資』の関心は非常に高く、各企業がSDGsに代表される社会問題を事業で解決していく姿勢があるかどうかが問はれている。自社の事業との関連性の高い社会課題を選択するにあたり(国連が提唱した)持続可能な開発目標「SDGs」を参考にする企業が増えたともいえる。日本においても国家戦略として「経済財政運営と改革の基本方針2018」、「未来投資戦略2018」などの推進で日本独自のSDCsモデルを構築し世界に発信・展開の状況がある。その内容については下記内容である。
SDGsと連動する“Society5.0”の推進 ※1
SDGsを原動とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的な町づくり
SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント
一方、市民社会の視点からも将来の世代の為の環境や資源を守る、世代間の公平を目指しかつ貧困削減とベーシック・ヒューマン・ニーズ(Basic Human Needs)※2 達成をはかる動きなどがある。「我々は誰一人取り残さない」(Leave no one behind : LNOB)がよく知られている。尚、SDGsの限界もいわれているので、その内容にも触れておく。
SDGsの17ゴール、169ターゲットに関しては不可分性が強調され、各国が自国の状況や優先順位に基づいて適用することも明記されているが多様な解釈が生まれることの懸念。
SDGsの実現の上で民間セクターの役割は重要だが企業は営利目的であり、貿易、投資の自由化を含む経済グローバル化が格差拡大を招いてきたことも有り貧困を終わらせる「誰一人取り残さない」といった2030アジェンダの概念がどこまで両立出来るかといった疑問等である。
2.SDGs とフードビジネスの関係について
ポイントを明確にするためSDGs各アジェンダとフードサービスをキーワードにて仕分けてみた。SDGsとフードビジネスキーワード(図1)は参照の通りである。更に、フードビジネスキーワードを曼荼羅(MANDRA)模様で(図2)表示してみたので理解の助けにして頂きたい。紙面の都合もあるため、そのいくつかに関し補足説明を加えることとする。
【SDGs 1,2 貧困と飢餓】
SDGsで特に強調されている地球環境問題も貧困と飢餓に大きく関与している。自然に依存して生活することの多い貧困層の多くは農業に依存して生活しているが、その確保が生命線である。食の生産、分配、消費の適正化はフードサービスの責務でもあるが世界で生産される食品の3分の1が無駄に廃棄されている点は又自省の必要がある。
【SDGs 3、すべての人に健康と福祉を】
すべての人が適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを支払い可能な範囲で受けられるプライマリーケアの整備がポイント。フードサービスに課せられた大きな目的はやはりヘルスケアのサポートでもある。
【SDGs 5 ジエンダー平等を実現する】
ジェンダー平等はすべての女性、男性、女児、男児が人権を確保するための前提条件だが、女性の抱えている問題が包括的に取り上げられており、そのエンパワーメントが課題である。ジエンダーギャップのないフードビジネス業界の確立はSDGs同様である。
【SDGs 6 安全な水とトイレを席中に】
生命や人間の尊厳の観点並びにフードビジネスの分野でも飲料水のサニテーション、排水処理と水質改善、水利用の効率と持続的な水資源管理にはそれを支える環境教育が必要である。
【SDGs 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに】
日本での2050年CO2ネット排出ゼロ宣言で話題となった。石炭火力発電が問題となっており再生可能エネルギーへのシフトは避けられない状況である。再生可能エネルギーでも純然たる「グリーンエネルギー」か化石燃料由来の「ブルーエネルギー」かを問われているためごまかしはきかない。フードビジネスでもその燃焼工程は避けられないため注視し続ける必要がある。
【SDGs 8、働きがいも経済成長も】
【SDGs 10 人や国の不平等をなくそう】
経済成長や資本蓄積の結果として資本が国境を越えるグローバリゼーションに導かれるが、その過程で経済支配や格差の拡大などを理由として特定地域や特定階層の人々の排除が起こる。2030アジェンダキーワード「誰一人取り残さない」という発展はこのような排除をなくす「包摂形」発展、つまり「経済成長と環境保全を両立させる発展」で有ることを意味する。ゴール8はSDGs全体を貫く衣食住、衛生、教育等の基本的人権を保証する条件であり、ゴール10の不平等是正は2030年に向けてSDGsを推進していく平和の条件である。フードビジネスのサプライチエーン展開に関しては基本となる理念と思われる。
【SDGs 9 産業と技術革新の基盤をつくろう】
すべての人々に安価で公平なアクセスに重点をおいた経済発展と福祉を支援するために質の高いレジリエント(強靱)なインフラ開発を目指している。2030年までに雇用を大幅に改善し、資源利用効率向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術を用いてインフラ改良、産業改善を目指している。フードビジネスにおいてもフードテック等を利用した技術向上とインフラ整備等は大きな目標である。
【SDGs 14 海の豊かさを守ろう 15:陸の豊かさを守ろう】
破壊された環境が再生可能なものである場合と異なり再生されない資源の場合、環境保全は何にも増して優先させる必要がある。世界経済の40%が生物由来や生態系プロセスの生産物であるといわれており、これらの減少や破壊は直接的に世界経済に影響し貧困を拡大させる可能性がある。フードビジネスはズバリ、海と陸の豊かさなくしては成立しない。
【SDGs 17 パートナーシップで目標を達成しよう】
SDGsは国際協力のみならずビジネスにおいても広く知られているようになり、CSR(企業の社会的責任)としてSDGsにどう貢献出来るかがサステナビリティ報告書でも盛んに掲載されている。SDGsを意図するグローバルイシュは民間企業の努力なくしては2030年では解決することは出来ないというセクターを超えた世界的な認識の共有が進みつつ有る。業界ごとの行動計画をまとめるツールとして「セクターロードマップ」等の作成が提唱されており、フードビジネス業界でもその取りまく他業界との連携は欠かせない。
まとめ
SDGsとフードビジネスに関し、関連性を俯瞰しながら述べたが、「食」と関連性が非常に高いため個々のアジェンダが正にフードビジネスのことを述べているかのような錯覚を覚えた次第である。イメージとして個々のアジェンダの相互関連性をご理解いただくために曼荼羅(Mandara)模様にて表示し、又、関わる人の「腹持ち」次第であると思いSustainable sphere(持続可能な地球)の中央に「人」と「LNOB」(Leave no one behind)を配した次第です。ご理解いただければ幸いです。
※本コラムは”月刊厨房”2021年10月号に掲載された内容を編纂し掲載しています。
※1: 狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の社会を目指す。技術革新社会の実現。
※2: ベーシック・ヒューマン・ニーズとは衣食住、教育、保険、雇用などを含めた基本的なニーズのこと。
〈参考資料〉
・「SDGsを学ぶ – 国際開発・国際協力入門」著者:高柳彰夫・大橋正明 / 発行:株式会社法規出版社 2019年
・「一冊で分かるESG/SDGs入門」 著者:大森充 発行:中央公論社 2019年
・「データで分かる2030年 地球の姿」著者:天馬賢治 発行:日本経済新聞出版部 2020年
・「知る・分かる・伝えるSDGsⅠ 貧困・食料・健康・ジェンダー・水と衛生」発行者:田中千津子 / 編者:阿部治、野田恵発行 / 発行:株式会社学文社 2019年
・「ESG早わかり」 著者:小平龍四郎 発行:日本経済新聞出版部 2021年
・「新しい食学をめざして -調理学からのアプローチ-」編著者:吉田集而 / 川端晶子 / 共著者:久保修「調理学の未来的対応」発行:株式会社 建帛社 2000年
Text by
久保修
監査理事 / 株式会社キッチンデザインフォーム
フードビジネスコンサルタント / 一級厨房設備技能士
武蔵工業大学工学部経営工学科、早稲田大学産業技術専門学校建築科 卒業後、総合厨房機器メーカー設備設計部長としてホテル、レストラン、セントラルキッチン、病院、社員食堂、学校給食等大量調理施設の企画設計、設備設計等手がける。その後、キッチンデザインフオーム設立。